日曜日, 11月 25, 2007

村山直儀「シンデレラ」の連作 第2作「夢の中」


夢の中(  バレエ「シンデレラ」より)
2006/7 油彩 F8号 45.5×37.9cm

二作目は、醜悪な表情をした姉がシンデレラの夢にまで現れて意地悪をする場面。グリム童話において、シンデレラの原題は、「灰かむり」である。もちろんそ の「灰かむり」とはシンデレラのことである。シンデレラは灰まみれになって働く娘が、最後には苦労の果てに幸福得る物語だ。元々シンデレラはお金持ちのひ とり娘であったが、母が重い病気にかかる。死期を覚った母は、娘の行く末を心配し、病床に娘を呼んで、こう言い聞かせた。

「シンデレラ、いい子だね。いつまでも神さまを大事にして、優しい気持ちで生きてね。そうすれば神さまが必ず助けてくださるはず。ママも天国からお前のこ とをいつも見ていますからね・・・。」

そう言い終わると、シンデレラの母は天国に旅立ってしまった。一年も過ぎないうちに父は、別の妻を迎える。シンデレラの本当の苦労はここから始まった。継 母にはふたりの美しい娘がいて、姿は美しいのだが、心の中はイカの墨のように真っ黒だった。そしてこの三人はシンデレラを召使いのようにこき使う。

シンデレラのサクセスストーリーは、継母や姉たちのイジメ方がひどければひどいほど、後にシンデレラが王子の愛を得て幸福になる成功譚が光り輝く構造に なっている。日本にも「鉢かつぎ」(「御伽草子」室町時代に成立)という継子が苦労の果てに幸福を得る物語が伝えられている。

考えてみれば、シンデレラの物語がこれほど世界的に愛される理由は、世界中の人間の心の中にシンデレラの話を受け入れる共通意識(集合的無意識)があるか らだ。シンデレラはいつも亡くなった母の言葉を思いだし優しい気持ちと神の愛を信じて疑わない。これがシンデレラが最後に幸運を引き寄せるキーとなった。

村山は、第一作目(「祈り」)の深い色合いから一転して、全体を薄い茶色で描いている。姉は増長と高慢さを見せて胸を反らせ、左右の両手を大きく拡げて、 「お前が舞踏会に行くなんて、無理に決まっているでしょう」とシンデレラをなじっているようだ。

第一作「祈り」が「聖なるもの」であるとすれば、二作目「夢の中」は「俗なるもの」という対比が可能だ。人間の醜悪な一面を描く村山の描写力もやはり凄い の一語だ。